相続人の一人が遺産を管理していて、他の相続人が遺産を知りたくても教えてくれない。そんなケースがよくあります。また、明らかに少ない金額しか言わず、遺産隠しが疑われることもあります。そんなときに、他の相続人がとりうる手段について説明します。
1.遺産分割前の遺産の管理は誰がするのか?
そもそも、遺産分割前の遺産は誰が管理するものなのか?
相続開始から遺産分割が完了するまでの遺産は、相続人全員の共有財産となります。
例えば、相続不動産について、各相続人は単独で保存行為(修理、税金の納入、不法占拠者の排除など)はできますが、処分行為(売却、担保の設定など)・変更行為(農地の宅地への変更など)をするには全員の同意が必要になります。
そして、遺産分割協議が完了した後は、協議内容にしたがうことになります。
2.相続人は他の相続人に遺産内容の開示義務を負うか?
実は、相続人が他の相続人に対して遺産の内容等を開示する法的義務を負うとする法律上の根拠は、直接的には見当たりません。
したがって、他の相続人としては、自力で調査して明らかにしていくしかないのが現状です。
3.具体的な対処方法
3-1.内容証明郵便で遺産の開示を求める
内容証明郵便とは「誰が、誰宛てに、いつ、どんな内容の手紙を出したのか」ということを公的に証明してくれる郵便です。法的な効果を発生させる重要な意思表示や通知の証拠を残したい場合に利用されます。
参照:「内容証明ー郵便局」
この内容証明郵便には法的な強制力はありませんが、事実上の心理的なプレッシャーを与えることにはなります。大ごとにしたくない場合には、まずは内容証明郵便で「遺産分割をするために、遺産の内容を開示してほしい」旨を記載して送るのがよいでしょう。
しかし、もともと遺産の開示に消極的な相続人がこの求めに応じることはあまり期待できないでしょう。
3-2.相続人みずから行える調査
不動産
不動産は、被相続人名義の固定資産評価証明書を取り寄せることでどのような不動産を所有していたかを特定することができます。
預貯金
被相続人名義の預貯金は、金融機関名と支店名まで特定できていれば、相続人が単独でその金融機関に残高、履歴明細、貸金庫の有無などの開示請求ができます。
金融機関名や支店名が分からない場合には、特に死亡時や過去の住居の近くなど思い当たる金融機関に問い合せて調べていくしかありません。
株式等証券口座
被相続人が株や債券などの証券取引をしていた場合、相続人が証券会社に対して取引履歴の開示を請求すると、取引の開示を受けることができます。
保険
保険は、自宅への郵便物や預貯金の取引履歴から保険会社を特定して、相続人として照会しましょう。
3-3.遺産分割調停・審判
相手が頑なに遺産を開示しないときは、遺産分割調停、遺産分割審判の手続きの利用が考えられます。
遺産分割調停
遺産分割調停とは、裁判官と調停委員が間に入って相続人間で遺産分割方法を話し合う手続きです。
当事者同士だと感情的になり話し合いが困難な場合でも、間に第三者である調停委員が入ることによって、より客観的で冷静な話し合いが期待できます。
この調停手続きの中で、調停委員を通じて相手方に釈明を求めたり、調査嘱託を申し立てるなどの方法で遺産の開示を求めることができます。
遺産分割審判
遺産分割審判とは、調停でも話し合いがまとまらなかった場合に、裁判官が強制的に遺産分割方法を決定する手続きです。
この審判手続きの中で、裁判官は職権で証拠調べをする権限がありますが、基本的には当事者が主張した内容と提出した証拠に基づいて判断をくだします。
この調停・審判の手続きに至った場合でも、相続財産を把握する相続人が相続財産を明らかにしてくれない場合、裁判所が相続財産を調査してくれるわけではありません。基本的には自分で遺産の範囲を主張・立証していかなければならないことを覚悟する必要があるでしょう。
4.まとめ
相続人の一人が遺産の内容を開示しなかったり、遺産隠しが疑われる場合には、結局遺産分割協議がまとまらず、トラブルに発展するおそれが大きいです。自分でできる調査方法もご紹介しましたが、限界がありますので、早めに弁護士等の専門家に相談するのが得策です。