公正証書遺言は、遺言を公正証書として作成することで、遺言書の存在と内容について「お墨付き」をもらう方法です。
遺言書を作成する方法(方式)はいくつかありますが、この公正証書遺言が最も安全確実に遺言内容を実行できるでしょう。
ここでは、公正証書遺言の作成手順と手続きの流れについて説明します。
参考:「遺言書の種類(方式)」
1.公正証書遺言作成の準備について
まずは、遺言書を書くために、必要な準備について説明します。
1-1.財産をリストアップする
遺言は、遺言者の財産を自分の死後、相続人や第三者に譲り渡すものです。そこで、遺言を書く前に自分の財産の棚卸をしましょう。
預金
遺言を書くにあたって、譲り渡す財産は明確に特定する必要があります。銀行名、支店名、口座番号のメモを手元に用意しましょう。
不動産(土地・建物)
同じく、不動産も明確な特定が重要です。通常は、登記簿(登記事項証明書)に記載された地番、地積、家屋番号等を遺言書に表記します。予め管轄の法務局にて登記簿(登記事項証明書)を1通取得しておくのがよいでしょう。
株式・投資信託
保有している株式の銘柄や株式数、投資信託のファンド名や残高などの確認をしましょう。ただし、株式や投資信託は相続による名義変更手続きが煩雑です。どうしても保有しておきたいものでなければ、生前に売却・処分しておくことも検討しておきましょう。
その他の財産
自動車や宝石、絵画、骨董品などがあればリストに加えましょう。なお、生命保険それ自体は相続財産には含まれませんが、受取人たる相続人と他の相続人との公平を考える上では重要ですので、確認しておきましょう。
1-2.財産の分け方を決める
財産のリストアップができたら、次はその財産をそれぞれ誰に相続させたいかを考え、決定します。可能であれば、相続人となる人や財産を譲り渡したい人に意向を伝えて、話し合うことが望ましいでしょう。このあたりは、親族関係の状況や、遺言を書く人の考え方次第なところもありますが、事前にコミュニケーションがよくとれていることが、争続を防ぐうえで大切です。
1-3.必要書類を準備する
公正証書遺言作成に必要な書類は次のとおりです。
- 遺言者の印鑑登録証明書(発行後3ヶ月以内のもの)
- 遺言者と相続人との続柄がわかる戸籍謄本
- 遺言で財産を相続人以外の人に遺贈する場合は、その人の住民票(法人に遺贈する場合は、その法人の登記簿謄本)
- 財産に不動産がある場合は、土地・建物の登記簿謄本と固定資産評価証明書(又は固定資産税の納税通知書)
- 財産に預金や有価証券がある場合は、その口座番号などが正確にわかるもの(通帳など)
- 証人2名の立会いが必要なので、その人の氏名・生年月日・住所・職業を正確に書いたメモ(自動車運転免許証の写しなどが最適)
- 遺言執行者を指定する場合は、その人の氏名・生年月日・住所・職業を正確に書いたメモ
なお、公正証書遺言の証人になれない人がいるのでご注意ください。具体的には、遺言者本人の推定相続人と受遺者、またその配偶者と直系血族(子・孫・父母・祖父母など)、未成年者などは証人になることができません。信頼のおける知人や法律専門家等に依頼するか、あるいは、公証役場で証人を紹介してもらうこともできます。
遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要な行為をする人です。遺言執行者は、立会いの証人、財産をもらう人(相続人・受遺者)でも指定することが可能です。
1-4.公証人との事前打ち合わせ
上記の準備がある程度そろったら、近くの公証役場に電話などで問い合わせて、事前相談に行きましょう。公証人は、裁判官や検察官など専門法律職の経験のある人から選ばれたプロです。遺留分(※)への配慮等も含めた内容面のチェックもしてもらえる点が公正証書遺言のメリットでしょう。
※遺留分とは、本人の兄弟姉妹以外の相続人に対して最低限認められる相続財産の割合のことをいいます。
2.公証役場での遺言書作成
公証人との打ち合わせで内容が確定したら、日にちを合せて公証役場に証人2人とともに集まります。持ち物は作成費用(後述)と実印(証人は認印でも可)です。
そこで、証人2人の立会いの下、次の手順で作成手続きが行われます。
- 遺言者本人が、公証人に遺言の内容を伝えます
- 公証人があらかじめ用意しておいた遺言公正証書を読み上げます
- 内容に間違いがなければ、本人と証人2人が署名押印します
- 公証人が署名押印します
- 公正証書遺言書は原本、正本、謄本の3通作成されます。原本は公証役場に保管され、正本、謄本は遺言者に渡されます。
最後に、あらかじめ用意した手数料を現金で公証役場に支払います。
3.公正証書遺言作成の費用(手数料)
公正証書遺言の作成手数料は、遺言対象となる財産の額に応じて下記のとおり法定されています。
目的の価額 | 手数料 |
100万円以下 | 5000円 |
100万円を超え200万円以下 | 7000円 |
200万円を超え500万円以下 | 11000円 |
500万円を超え1000万円以下 | 17000円 |
1000万円を超え3000万円以下 | 23000円 |
3000万円を超え5000万円以下 | 29000円 |
5000万円を超え1億円以下 | 43000円 |
1億円を超え3億円以下 | 43000円に超過額5000万円までごとに13000円を加算した額 |
3億円を超え10億円以下 | 95000円に超過額5000万円までごとに11000円を加算した額 |
10億円を超える場合 | 249000円に超過額5000万円までごとに8000円を加算した額 |
算定不能のもの | 11000円 |
上記の基準を前提に、具体的に手数料を算出するには、下記の点に留意が必要です。
- 遺言者の各財産ごとにその財産の価額を算出し、その価額に対応する手数料額を求め、これらの手数料額を合算して、当該遺言書全体の手数料を算出します。
- 遺言加算といって、全体の財産が1億円以下のときは、上記基準によって算出された手数料額に、1万1000円が加算されます。
- 正本、謄本の交付につき1枚250円の手数料がかかります。
- 公正証書遺言は、公証人が病院、自宅、老人ホーム等に赴いて作成することも可能ですが、その場合、手数料の加算や日当、交通費がかかります。
4.公正証書遺言の作成後について
4-1.正本、謄本の保管
公正証書遺言の原本は公証役場で保管され、遺言者には正本と謄本が渡されます。正本と謄本の違いは省略しますが、どちらも原本と同一内容のものが記載された写しのことです。ほぼ同じようなものと思っていただいて差し支えありません。
この正本又は謄本は、遺言者の死後に実際に名義変更等手続をするときに必要になります。
一般的には、遺言執行者がいる場合は遺言執行者が正本を保管し、謄本は遺言者が控えとして保管するということが多いです。仮に紛失をした場合でも、謄本の再発行請求ができます。
参考:遺言の執行手続きの流れ
4-2.公正証書遺言の書き直しや遺言内容の変更について
公正証書遺言を作成した後に、家族関係をとりまく状況の変化や心境の変化などによって、書き直しや内容の変更をしたくなることはありえます。また財産の内容が大きく変わった場合も、書き直した方がよいでしょう。
遺言は人の最終意思を尊重するものなので、一度作成した後であっても、いつでも変更・撤回が可能です。
ただし、その書き直し、変更、撤回も遺言の方式に従って行わなければなりません。
自筆証書遺言であれば、手元の遺言を破棄して、新しく書けばよいですが、公正証書遺言の場合は原本が公証役場で保管されていますので、手元の謄本や正本を破棄しても意味がありません。
確実に書き直し、変更、撤回をするために、再度公正証書遺言を作成するのがよいでしょう。
5.遺言者死亡後の手続き・流れについて
遺言者が亡くなると、公正証書遺言は効力を生じます。ただ、実際に遺言書の内容を実現するためには、銀行から預金の払い戻しを受けたり、不動産の登記を移転したり、いろいろな手続きが必要になります。
なお、公正証書遺言の場合は家庭裁判所への検認手続きは不要です。
5-1.遺言執行者が指定されている場合
遺言執行者は遺言の内容を実現させるために必要な一切の行為をする権利義務を有します。したがって、遺言書の内容を実現させるための手続きを遺言執行者が単独で行うことができます。
5-2.遺言執行者が指定されていない場合
相続人や受遺者(遺贈によって財産をもらい受ける人)が遺言の内容を実現させるための手続きを行うことになります。この場合、手続きによっては、相続人全員の実印と印鑑証明が必要になりますが、遺言書において不利に扱われた相続人の協力が得られず、遺言書の内容を実現するための手続きが進展しないケースも多々あります。
6.まとめ
公正証書遺言は安全確実に遺言内容の実現ができる方式ですが、他の方式よりも費用と手間がかかります。また、トラブルが起きないようにするためにも、公証役場や法律専門家等のサポートを受けながら作成するのが良いでしょう。