【相談事例】
入院中の親族が「私のことはすべてお前に頼む」と言ってくれているが、確実に相続をするために遺言書を作成してほしいと思っている。何かいい方法はないか?
このように、入院中の親族の遺志が明確なのに遺言書がないためにその思い通りにならないというケースがあります。このような場合に取るべき方法について考えてみましょう。
まずは本人の意思が第一
そもそも遺言書を作成したいのは親族の方でしょうか?それとも入院中のご本人でしょうか?
遺言書は本人が自分の意思で作成するものなので、いくら周りの人が書いてほしいと思っても、肝心の本人がその気になっていなければどうしようもありません。相談を受けていてこの点でつまづくことが多いです。
もし本当に「財産を全部譲りたい」と思ってくれているのであれば、それを確実に実現するために遺言書が必要だということをわかってもらうことが大切です。
自筆か、公正証書か
本人が遺言書を作成する気になっている場合に、方法は大きく2つあります。
① 自筆証書遺言
遺言書の全文を自分で手書きする方法です。
メリット
手軽にできるということ。証人を用意する必要もないし、公証人を手配する必要もありません。
デメリット
法律上有効で適切なものになっているかわかりにくいこと。全文を手書きしなければならないので、書くのが手間なこと。意識や判断力に疑問がある場合に後々有効性についてもめる可能性があること。ただし、「全文を手書き」ということについては法改正によりやや緩和され、財産目録についてはパソコンで作成することも可能になっています。
参考記事:「自筆証書遺言の方式緩和について|2019年法改正により遺言作成が簡単に」
自筆証書遺言がおすすめなケース
このようなことからすると、自筆証書遺言にした方がいいケースというのは、遺言内容がシンプル(例えばすべてを配偶者に相続させる場合など)で本人が簡潔に済ませたい場合に限られるでしょう。その場合は、法律上有効で適切な遺言書を作成するために、専門家に文案を作成してもらうのがよいでしょう。
② 公正証書遺言
公正証書遺言は公証役場で公証人に作成してもらう遺言ですが、入院中の病室まで出張してもらって作成することも可能です。本人の面前で遺言内容を確認して作成し、サインとハンコをすることで有効なものとなります。
メリット
確実だということに尽きます。また、全文を手書きしなくてもよいというのは大きな利点です。例えば、手が震えて文字が書けなくても作成できます。
デメリット
費用が割高になることです。感染症対策のため面会が制限される場合があること。証人が2人必要であるなど手続きが億劫に感じられること。面会の制限については、病院によって対応が異なりますので、事前によく確認しておくことが大切です。
公正証書遺言がおすすめなケース
ある程度体調も安定していて期間に余裕がある場合は、基本的に公正証書遺言の方がおすすめです。証人の手配や公証人の手配など、一見ハードルが高く億劫に思えますが、専門家にそれらをすべて任せてしまえば、基本的にやることは内容を確認してサインとハンコをするだけです。割高な費用も、後々のトラブルや面倒を避けるためと思えば必要な支出といえるでしょう。
③一刻を争う場合-危急時遺言
体調の急変により一刻を争う場合は、特別な方法として危急時遺言というものがあります。
参考記事:「緊急時の遺言の残し方|危急時遺言とは」
まとめ
入院中の遺言の作成方法は本文の通りですが、一番は本人の意思が固まっていることです。進め方は本人の気持ちや状況によってさまざまですので、どのようにするのがベストかという点も含めて専門家に相談するのがおすすめです。